Scene28-6

「大島さん。えー。あなたは、感心できる行動力の持ち主です。あなたは私が鋭いと感づ
くと、わざと目立つように行動しました。えー。緊張で口が回らないメンバーを私の追求
から守るためです。私が皆さんにサインをお願いしたときに、あなたは指紋を採取される
ことを警戒して、ほかのメンバーに私のペンを触らせませんでした。あれには感心しまし
た。しかし、あなた、自分のことを忘れていました」
 メンバーの視線が大島の背中に注ぐ。大島はうなだれた。
「古畑さん」
 前田が声を上げた。
「なんでしょう」
「接点の話の前に、被害者が私のストーカーだってことを証明していただけませんか?私の事務所の男は捕まったんですか?」
「えー。実はその男性非常に逃げるのが上手なんです」
「まだ捕まってないんですか?」
「はい」
「じゃあ…」
「でも、…証明はできます。えー。まず…」
 古畑は先程西園寺が運んできたダンボールのなかから、携帯電話を取り出した。

Scene28-7

「犯人たちは、かなり丁寧に処分をしていました。被害者の家にあったであろう写真、パソコン。そして、この携帯もそうです。犯人たちには運が向いていました。携帯の画像は すべてカードに保存されていました。そのため、犯人たちは、カードを処分するだけで済
んだんです。えー。しかし、接点は画像や写真だけでしょうか?」
 古畑は携帯を開き、中央のキーを人差し指で押した。軽快な音楽が、静まりかえったド ームを走り抜けていった。
「はい。この曲。前田さん、ご存じですね?」
「…はい」
「曲名をうかがってもよろしいですか?」
「この胸のメロディー…」
「ありがとうございます。これはあなたのソロデビューシングルのカップリング曲です」
 そう言って古畑は、キーを打って、音楽を止めた。
「それが、何か?」
「はい。この曲私も聞いたことあるんです。えー。殺人現場でです。私が聞いたのはアラ ームでした。被害者はこの曲をアラームに設定していたんです。では、最初のアラームを
見てみましょう。4時15分です。念のため言っておきますが、午後ではありません、午 前です。えー。前にもお話しした通り、被害者は無職です。アルバイトもやっていません
でした。そんな彼が、4時15分にアラームを設定していたのはどうしてでしょう。前田 さん」

Scene28-8

「えー。最初のアラームが鳴った約15分後にうちの今泉があなたを目撃しました。そして、ちょっと気になって調べてみました。彼はかなりの量アラームを設定しています。4 時15分の次は、12時15分、その次は22時40分。これを見ていて、私はあることに気づきました。そして、私はあなたのマネージャーさんに確認しました。何を。あなたのスケジュールです」
 古畑は胸の内ポケットから、一枚の紙を取り出した。
「えー。この日、あなたの最初の仕事は6時に集合です。あなたはいつもタクシーを使うそうですね。あなたのマンションから、最初の仕事場まで余裕をもって向かうには、4時半ごろ、家を出る必要があります。えー、最初の仕事が終了するのは14時5分です。そして、次の仕事、この日は最後の仕事になりますが、これが終了するのが23時55分で した。えー。彼のアラームに戻ってみましょう。んー。一見関係のないように見えます。 しかし、彼のアラームに設定された時刻は、彼の自宅から、あなたの自宅や仕事場まで、
電車で余裕を持って向かうのにちょうどいい時刻なんです。えー。さらに、彼は駅で使わ れているICカードの機能を携帯電話に入れていました。そして、彼はそこに2万円が入
っていました。彼が頻繁に電車を利用していたことがわかります。えー。彼は仕事を終えたあなたを追うために、このアラームを設定していました。この法則は残りの六つのアラームにも当てはまります。…はい。これが、被害者があなたのストーカーだったという証
拠です」


Scene28-9

「えー。被害者は事件当日もこのアラームの通り行動しました。しかし、実際に犯人を殺害したのは違う人物です」
 古畑は一度言葉を切った。
「えー。殺したのは高橋さん。あなたですね?」
 高橋はまっすぐに古畑を見つめた。
「説明してください」
「もちろんです。…えー。これ、見てください」
 古畑はダンボールから、ビニールで包まれた被害者のジャンパーを取り出した。


Scene28-10

「被害者が着用していたジャンパーです。ここ、見てください。破れています。かなり大きな穴です。中の綿が出てきているので、鋭利な刃物ではなく、なにか引っかかりのあるもので破いたことになります。そこでピンと
きました。…そして、臭いを嗅いでみました。案の定、あの強烈な臭いでした。つまり、このジャンパーの穴は、その位置から見ても、犯人がこの石で後頭部を殴った後、その重さに耐えられず、落とした際に破れた穴だと
考えられます。しかし、凶器に使われたこの石は非常に軽いんです。女性でも、両手ならあの程度の重さは振りまわすことができます。しかし、犯人は耐えられなかったんです。つまり、腕に力の入る状況ではなかったとい
うことです。そこで、私はあなたに目をつけました。あなたは左腕を怪我していました。あなたがこの凶器で被害者を殴り殺したんです」
 水を打ったように静かになった空間で、一つの声が上がった。
「その通りです。古畑さん。私が…」
「違います!私がやったんです!」
 前田が高橋を遮る。興奮する前田を、古畑は手で制した。



コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索