Scene18-1

―喫茶店―

 「古畑さん、こっちです」
 古畑と西園寺はテレビ局とはす向かいにあるカフェにいた。
「外暑いねぇ」
「今日も最高気温32度だそうです」
「異常だよ。地球も終わりだね」
「何になさいますか?」
 店員が古畑に訊く。
「アイスコーヒーちょうだい。君も何か飲めば?」
「ありがとうございます。僕もアイスコーヒーを」
「かしこまりました」
「さっそく報告ですが、被害者の男性は古畑さんの推測した通り、無職でした。親からの
仕送りで生活していたそうです」

Scene18-2

「続けて」
「被害者宅と同様に、携帯電話のメールや着信履歴もすべて削除されていました。しかし、
復元した通話記録をしらべたところ、男性は両親以外にある人物と連絡をとっていることが
わかったそうです」
「誰なの?」
「今、電話番号から特定しています。それと凶器ですが、現場近くの花壇にある、形が同じ
15個の置き石の一つが不自然になくなっていて、打撲痕から見ても、その置き石が凶器と
いう可能性が濃厚です」
「その置き石って、みんな同じ形なんだよね?」
「はい」
「大きさも?」
「はい。おそらく」
「重さも?」
「重さ、ですか?」
「わからないの?」
「はい。確認してみないと」
「あぁ、そう。その凶器もう少し知りたいな。現物が欲しいね」
「わかりました。手配します」
「うん。そういえば今泉は?」

Scene18-3

「今泉さんなら、出待ちしてますよ。ほら、あそこです」
 西園寺が指差した先には、テレビ局の入り口で色紙を抱えている今泉がいた。
「ほんとだ。あいつもバカだねぇ。正面から出てくるわけないじゃないか」
 古畑は言いながら、紙袋から先程その場にいたメンバー20人が書いたサインを取り出した。
「こうなると48人分欲しくなってくるねぇ」
 一枚一枚に目を通しながら古畑が言う。
「はい。次会うときにもお願いしましょうか」
「そうだね。頼んだよ」
「あれ、今泉さん?」
 店の入り口に現れた今泉は、残念そうな顔でこちらに近づいてきた。
「さっき警備の人が来て、行っちゃったよって。って、古畑さん!?」
「なに」
「なんですかそれぇー」
「なにって見ればわかるだろ。サインだよ」

Scene18-4

「二人ともいままで会ってたんですか?」
「そうだよ」
「何で僕も連れて行ってくれなかったのさ」
「捜査に行くのを断ったのは今泉さんじゃないですか」
「だってAKBを捜査するとは一言も言ってないじゃないか」
 今泉はもう泣きそうだ。
「言ってないよ」
「古畑さん!せめてさしこのサインだけでもください!」
「さしこ?」
「指原莉乃ちゃんですよ」
「前田敦子さんではなかったんですか?」
「あっちゃんも好きだけど推しじゃないんだよ」
「知らないよ。欲しいなら自分でもらいなよ」
「そんな。捜査だからってズルい…。え。待ってください。古畑さん。もしかして彼女た
ちを疑ってるんですか?」
「お前にしては鋭いじゃないか」
「何でですか?彼女たちに何の関係があるっていうんですか?」

Scene18-5

「お前に話すだけ無駄だよ。行こう西園寺君」
 古畑は手早く荷物をまとめると、立ちあがった。西園寺も続く。
「はい」
「そんな、ひどいよ。なんでいつも僕だけ…」
「あ、そうだ。今泉くん」
「はい?」
「明日の握手会、行っていいよ」
「え?ほんとですか?」
 今泉の顔に明るさが戻る。
「その代わり、僕も連れて行ってくれる?」
「えぇ…」
「嫌なの?」
「い、いえ。大丈夫です」
「じゃあお願いね。あ、それ立て替えておいて」
 古畑は席に残されたレシートを指差して言う。
「よろしくお願いします」
「そんなのないよ…」
 今泉は今まで古畑が座っていた席に、力なく腰かけた。



コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索